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三宅雪嶺と「団塊の世代」

2004年09月30日17:07

前回の続き。三宅雪嶺の遺著『同時代史』は、文字通り、雪嶺の生きた明治、大正、昭和初期という「同時代」の「歴史」を書いた評論だ。

その試みが成功したかどうかは、難解かつ硬質な文体に恐れをなして読破を諦めた私には判断できない。できないがしかし、同時代について「歴史」として著述するという困難を試みる姿勢には打たれる。

その時に考え合わせるのは、“団塊の世代”と呼ばれる戦後の寵児たちだ。

前回書いたように、雪嶺・三宅雄二郎は、桜田門外の変が起きた年に生まれ、太平洋戦争の敗戦が決した年に亡くなった。明治維新、文明開化、日清・日露戦争、大正デモクラシー、そして十五年戦争という、いわば日本の近代そのものを目の当たりにして来た人物だ。

遺作『同時代史』(雑誌『我観』連載時は「同時代観」)の「同時代」とは、つまり、日本が近代化し、その結果として破綻する「戦前」という時代そのものだ。在野に超然として屹立しつつ、自らの生きた時代をこの老人は書き綴った。

同時代の歴史を記述するのは難しい。それは、同時代(自分が生きてきたほんの数年前、数十年前)の政治や文化といった時代的“風土”が、それを書き綴っている本人にも地続きであるからだ。書き方によっては、過去の自分を弾劾しなければならないし、それを避ければ歴史としての価値を損じてしまう。

雪嶺老人はそれをやった。徹底して日々は清貧、性もとより朴訥にして、幾度かの入閣を謝絶して在野を守った孤高の言論人なればこそ、だろう。

こんなことを思うのは、「戦後」というものを語る老人が、今日、どこにもいないからだ。

桜田門外の変をもって長い「戦前近代日本」が幕空けたとするならば、「戦後日本」の幕開けは敗戦の玉音放送だった。万延元年に生まれた雪嶺は、玉音放送をもって死んだ。では玉音放送の後に生まれた、雪嶺に代わる人たちはだれなのか。

団塊の世代である。

狭義には1947年から1949年に生まれた人たちをいう。「戦争を知らない子供たち」の第一世代である彼らは、延べ800万人を超える。

ベビーブーマー世代、全共闘世代、ジーパン世代、ニューミュージック世代――。時代によってさまざまに呼び名は変わったが、戦後日本のライフスタイルを築き上げた世代であることは間違いない。

若き日に「政治の季節」を生きた彼らは、しかし安保闘争において完膚なきまでに敗北する。その挫折感を抱きながら、大半が企業に入社して日本の高度成長期を牽引する一方、明るく健全な“ニューファミリー”を作り上げた。

やや強引に過ぎるが、それが団塊の世代である。良くも悪くも、戦後日本が進む方向性を彼らが決したのは間違いない。

しかし彼らは、彼らの同時代の歴史に対して口をつぐんだままだ。

政治の季節とは一体何だったのか。その一つの到達点としての「あさま山荘事件」とは何だったのか。佐々淳行・後藤田正晴による一方的な歴史評価によって刻印されようとしている同事件について、団塊の世代はなぜ黙りつづけているのか。

彼らが語ることなく戦後は終わらない。この終わることのない「戦後」に生きる私たちは、“団塊の世代の「同時代史」”を必要としている。

来年は終戦60年。そして2007年には団塊の世代が大量リタイアを始める。全共闘を挫折した彼らが囚われていた会社から一斉に離れるとき、その新しい勢力が何を語るのか、その言動に注目しよう。彼らが、自ら構築した福祉システムに安住して、黙したまま“勝ち逃げ”するのを許してはならない。

彼らがいたずらに現代世相や若者たちの言動を嘆こうとするならば、その声に耳を貸す必要はない。彼ら自身がその半生を振り返り、それを自らの言葉で語る(歴史を記述する)ことを始めたならば、その詠嘆には真摯に耳を傾けよう。

雪嶺の事跡を追いながら、ふとそんなことを考えた。

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by 北山慈(2004年10月01日 12:57)

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