洋酒山牛蒡
2004年10月08日14:13
白い綿地の体操服のほぼ真ん中に、鮮やかな紫色の染みができた。
当時、小学校の一年生だった私は、近所の空き地で虫を捕らえて遊んでいた。蜻蛉を追って草むらに入って、出てきたときにはお腹のあたりが鮮やかに染まっていた。
「お母さんに怒られる」
泣きそうになるのをこらえて自宅に帰ると、母親は教えてくれた。
「ヨウシュヤマゴボウね」
母親と連れ立って空き地に戻って、その奇妙な名前の植物をつぶさに観てみた。山葡萄のような実が房をなしていた。つぶすと、シャツを染めた紫色の果汁が指先を濡らした。
叱られるかと思っていたら「染みができたら、今日みたいにすぐに言いなさい。早ければ落ちるから」と言われた。
果たしてシャツは、純白に戻った。
それから私は「ヨウシュヤマゴボウ」という植物に興味を持った。ビニール袋に満たした水道水の中に、その実を数個放り込んで揉んでやるだけで色鮮やかな「色水」ができた。
紫の「色水」は、好んで読んでいた絵本の中に出てくる「葡萄酒」を思わせた。飲んだことはないが、絵本の登場人物たちが愛飲する、その瓶詰めの紫色の液体に少年時代の私はずっと憧れていた。
その連想からだろうか。ヨウシュヤマゴボウの「ヨウシュ」は、私の中でずっと「洋酒」の響きと重なっていた。
正しくは「洋種山牛蒡」。その名の通り、明治期に米国から舶来した西洋種の植物だ。赤インクの代用として、その果汁が使われたこともあったという。
秋が深まり、洋種山牛蒡の実もいよいよ落ち始める。今住む自宅の近くの空き地にもこの植物が実をつけ、その房を垂らしていた(写真)。それを見て、私の“洋酒”山牛蒡を少しほろ苦く思い出した。
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