Sponsored Link

ホタルイカを安く食う方法

2005年04月06日15:27

桜咲く季節ともなると、ホタルイカ漁船が富山湾滑川沖に夜な夜な定置網を打つ。網を揚げると、無数のイカが青白く発光し、水面が妖しく輝く。その幻想的な光景を見るために観光船が出る。新鮮なホタルイカは、食べても実に美味である。

仕事で富山、岐阜に足を運んだ。空路で富山に入り、取材を終えて一泊。翌朝、北陸本線の特急「しらさぎ」で米原経由で3時間かけて岐阜に向かった。昨年の台風の影響で一部区間が不通になっているため、高山本線の特急が利用できなかったからだ。

せっかくこの季節に富山を訪れたのだからホタルイカを食したいと思うのが人情というもの。ところが宿泊したホテルが街中から外れた場所にあって、周囲にそれらしい飲食店がない。あるいは、と思ってホテルの中の和食レストランに足を運ぶが、メニューの中に見つけたのは、ボイルしたホタルイカの酢味噌和えであった。関東の居酒屋でも出てくるアレである。

やむを得ず「鰤尽くし」なるメニューを頼み、鰤のヅケ丼や鰤のしゃぶしゃぶなどをおいしく頂いたが、あの手のひらに優に乗っかるほどの、つぶらな目玉が体に比して異様なまでに大きな、可憐に透き通った胴体が美しい、ああホタルイカ君への思いを断ち切ることができず、欲求不満を抱えて部屋に戻ってエロビデオの無料視聴を眺めたりしてみたのだった。

書類を届けるために、タクシーで富山市内の某所へ向かった。その帰途、運転手に聞いてみる。
「このあたりに、ホタルイカを生で食わせる店はないかな」
「そら、いくらでもあるよ」
「これから向かうホテルの近くにもあるの?」

運転手は店の名を二、三挙げて「必要ならばそこで降ろす」と言ってくれた。ホテルに一番近い店で降ろしてもらおうと、その旨を頼むと
「それもいいけど、生のホタルイカを食いたいなら、店になんぞ行く必要はないよ」
と、運転手。
「スーパーで売ってるんだから。その方が安く食えるよ」

さすがは地元人。なるほどそれが一番安上がりだろう。ホテルから近いスーパーの場所を訊ねると、丁寧に教えてくれた上、ホタルイカをうまく食うためのアドバイスまでくれた。
「生姜醤油で食べるのがうまい。山葵は合わない。生に酢味噌はもったいない」

スーパーの鮮魚コーナーでは絶句した。安い。20匹近く生のホタルイカがパックに入っていて、179円。驚くなかれ179円である。都内の居酒屋でボイルされたホタルイカが5匹ばかりちょこんと小鉢に乗っかっていて酢味噌がかけられたやつを頼めばそれだけで500円近く取られるのと比べると、これはもう破格の値段と言うべきであろう。

ついでにボイルド・ホタルイカも買おうか。こちらも20匹以上入って158円とリーズナブル。醤油と、チューブ入りの生姜、紙皿、割り箸、酢味噌などを次々に籠に放り込んで、レジで支払ったのは1000円にも満たない。ビニール袋をぶら下げて、歩いてホテルに戻った。

生ホタルイカのパックには「お刺身での利用の際は内臓を抜いてください」とある。寄生虫を避けるためだろう。ビジネスホテルのユニットバスでせっせとイカの内臓を抜く。内臓や目玉がどろどろとコップに溜まっていく。

10分ほどで作業は完了。それらしく紙皿の上にお造り風に並べながら、「ひとりビジネスホテルの一室でおれは何をしてるんだ」という思いに駆られなくもなかったが、ともかく盛り付けが完了したのが冒頭の写真である。

内臓を抜くべきかどうかは正直、迷った。イカは内臓、なかんずく肝がうまい。鮮度が悪ければ肝など捨てるしかないが、生きたスルメイカが手に入れば墨袋を破らぬように肝を取り出し、醤油で溶いて胴の身をつけて食べてもいいし、肝だけを取り出して軽くあぶってもいい。塩辛にしてもいい。その深い滋味、濃厚な甘みはウニのそれと比べてもひけを取らない。

スルメイカの肝や内臓のうまみを知りたいという欲求はあった。茹でてあっても、コクのある内蔵の旨みがすばらしく、であれば生スルメイカの内臓の旨みはいかばかりかと夢想せずにはいられない。

しかし、理性の声が勝った。内臓はひとつ残らず抜いてしまった。帰宅後、ネットで調べてその措置が正しかったことを後から知ってややぞっとした。なかなか凶悪な寄生虫らしい。

生ホタルイカ。足も内臓ごと抜いてしまったから、エンペラと胴だけだ。これを、生姜醤油で頂いた。甘みがあってコクがあり、うまい。もっと淡白なものを想像していたが、ややコリコリと硬い(新鮮なイカはねちゃねちゃしておらず、コリコリと硬い)身を咀嚼していると、その感触の向こうからどっこい生姜醤油に負けない甘みが沸いてくる。

結局、ひとりで生20匹以上、ボイル20匹以上の、合計40匹以上のホタルイカを胃の腑に収めてしまった計算だ。食べすぎである。しかし、皿だの箸だの合わせても1000円以内。安さもご馳走の内であり、いやまったく大満足であった。

トラックバック

trackbackURL:

コメント

2ヶ月経ってしまった・・・
蛇足さんは何処に・・・

by いいちょ(2005年06月07日 00:20)

蛇足さん、生きてらっしゃるのだろうか・・(>_<)

by こころ(2005年05月27日 16:42)

お元気でお過ごしですか?
ホタルイカも美味しいんですけど、もうお腹いっぱい。
5月は違うものが食べたいです。

by ストッキングちゃん(2005年05月26日 07:44)

おいしそう!!!しかもめちゃ安ですね!!

by 山本山(2005年04月10日 16:33)

久々の更新に大満足(←何様・笑)です
姉ちゃん(さん)も書いてますけど、読みやすくて愉快な文章がすばらしい。最近の記事は、蛇足さんのコワモテじゃないほうの人柄がよく出ててステキです

by メロンちゃん(2005年04月08日 14:23)

いつもながら軽快な文体お見事!

by 姉ちゃん(2005年04月07日 18:29)

コメント記入欄

コメントをお寄せ下さい
最近の記事
ジャンル別
食 旅 社会 書評 音楽 創作 日常 歴史
特別連載中
戦前には海軍工廠が置かれ、重工業技術が集積した町「呉」。戦艦大和を生み出した“企業城下町”の痕跡を訪ねて歩く。(2006年5月25日連載開始)
過去の記事(月別アーカイブ)
検索
Creative Commons License
「ひとりじょうご」の複写、転載については Creative Commons Licenseに従ってください。
This weblog is licensed under a Creative Commons License.
Creative Commons License
Powered by