園田英弘「世界一周の誕生」
2005年11月19日23:38
園田英弘「世界一周の誕生」(文芸春秋社、700円、蛇足の勝手お勧め度:★★★★☆)
「グローバリズムの起源」というサブタイトルの通り、本著の狙いは「グローバリズムの初期的な形成のプロセスを探ること」。著者は「グローバリズム」の起源を、19世紀に蒸気機関の発明によって可能になった「世界一周」に見る。豊富な事例で「世界一周」、そして「グローバリズム」誕生の軌跡を追う好著(シリーズ:乱読書評)。
一般に社会学、経済学、政治学のタームであるとされる「グローバリズム」というものが、知らずして私たち一般人の心の奥に根ざし始めている現状を、著者は、東京ディズニーランドのアトラクションで流れる「小さな世界」を例に説く。
「ちいさな せかい」をはじめて日本語で聞いた。やたらと、「せかいは おなじ」という言葉が、繰り返し耳に飛び込んできたのには、正直言って驚いた。…中略…「せかいは せまく」なった。しかし、世界が狭くなれば「せかいは おなじ」になるだろうか。
著者の問題意識は、「せかいは おなじ」という「グローバリズム」を次のように解体する。
むしろ「世界」が「ちいさく」なったから、より一層、異質なもの同士が隣り合っているという意味では、「ただ ひとつ」になる方向へ世界が進んでいることに、危機すら感じてしまうのである。
こんな危機感を抱かずに「小さな世界」を聴けてしまう、歌えてしまうというところに、著者は、「グローバリズム」の考え方が、私たちの心の奥にまで染み渡っている事実を見る。
ま、ここまでは、気の利いたエッセイストなら書けるグローバリズム批判だろう。しかしこれはあくまで「はじめに」と題された序文の内容。次章から博覧強記の著者らしく実証に実証を重ねて、その「グローバリズム」なるものがいかにして私たちの心の中に形成されてきたのかを探る。
天文学と大航海時代以降の冒険家たちの功績によって、知識として「地球は丸い」ことは、一定の疑いを抱かれながらも西欧社会に広がっていったが、それを一般人が「実感」できたのは19世紀後半、蒸気機関の発明と普及によって鉄道や汽船が地球を安全に周回できるだけのエネルギーを得てからだ。
19世紀後半、「世界一周」が可能になった蒸気機関時代の最初期の人たちの軌跡を本著では詳細に追う。「米欧回覧実記」の編著者である久米邦武、リンカーン大統領のもとで国務長官を務めたシューアード、訪日中に恐れていた地震(濃尾大地震)に遭遇してしまった英国人女性などの実例を、文献を丁寧に紐解いてくれる。
読後、蒸気機関の発明が地球を“時間的”に狭くすることで「世界一周」を可能にして「グローバリズム」の起源を可能にしたとすれば、「情報」に関して言えば“時間的”には地球をゼロ化してしまうインターネットの発明と普及は、「グローバリズム」をどのように変化させるのか、というところに興味を持った。
インターネットはグローバリズムを加速させるのか、あるいは逆なのか。そんなことをぼんやり考えながら1時間くらいで一気に読み切った。豊富な実例と歴史考証に脱帽。読み物としても単純におもしろい。(★★★★☆)
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