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「HERO」静謐で確かなエネルギー

2005年12月24日02:36

HERO (初回盤)久々に手放しでオススメしたい。新曲「HERO」は名曲だ。

発売を11日に控えた新曲「HERO」を、虚心に聴いた結論だ。聴き終えてしばらく唸ってしまった。実に久々に、ミスチルの新曲を、大っぴらに褒められる。

(この記事は2002年12月9日付け「鉱雀記」の記事「新曲『HERO』レビューを一部修正の上、再録したものです)

Aメロ大王の復活

一言でいえば「エネルギー」を感じた。静かな中にも確かなエネルギーだ。

例えば「Tomorrow Never Knows」で「♪心のまま僕は行くのさ 誰も知ることの無い明日へ」と、メロディは静かに、それこそ放物線を描くかのように下降しながら、しかしむしろエネルギーは高まり、放たれるほどに力強く響いていたのを想起する。あるいはテンポの早いバージョンよりも、テンポを押さえ、アコギのアルペジオで、一音一音を確かめるようにコードを進めていくアルバムバージョンの方に、静謐にこそ宿る力強いエネルギーを感じた「I'll be」を思い起こす。

つんのめるようなドラムスで入り、マイナーなラインを立ち上がっていくギター。sus4からの展開などは、ミスチルに限らず“ポップス文法”の基本を押さえたつくりといえる。いわばポップバンドサウンドの教科書的な展開だ。

しかし、ボーカルが入るや、バンド的な音や意匠は姿を消し、イントロではギターに隠れてほとんど聴き取れないピアノが音を転がす。

このAメロは秀逸だ。

例えば誰か1人の生命と 引き換えに世界を救えるとして
僕は誰かが名乗り出るのを 待っているだけの男だ

ここで最初の“裏切り”がある。ポップス的文法に満ちたイントロと比べて、あまりに飾りのない音作りに。そして「HERO」という名の歌を桜井和寿というカリスマが歌うにも関わらず、出だしから自らが「HERO」であることを否定してしまう歌詞の内容に。

「HERO」と名を冠したこの曲は、つまり、いわゆる「HERO」であることを否定するラブソングなのだ。これは「HERO」を主人公にしたラブソング「Hallelujah」が何バージョンもリミックスを続け、結局シングルとして出せずに迷走したのと非常に好対照だ。以下に引用するのは「Hallelujah」の歌詞。

いつの日か年老いていっても この視力が衰えていっても
そう 君だけは見える
もしかして地球が止まっても 人類が滅亡に向かっても
そう この想いは続く
僕は世の中を儚気に歌うだけの散っちゃな男じゃなく
太陽が一日中雲に覆われてたって 代わって君に光を射す

「地球が止まる」「滅亡する」…そんな時に「誰かが名乗り出るのを待っているだけの男」というリアリティこそ、この「HERO」を支える、ささやかだが確かな「エネルギー」の正体なのだ。

筆者はここで、井上陽水の「傘が無い」における、“非日常的なまでの日常”という奇妙なパラドックスと、そこに漂う救いようの無い悲しさを思い起こしてしまうのだが、それは余談。

“戦略的裏声”に参った!

次いでBメロは、伸びやかな音を紡ぎ、滑らかなラインを描く。「あいすべーきたーくさーん」「ぼくをおーくびょーうもーん」と、耳に心地よい。この音域は、桜井のボーカルが最も美しく、透明感ある伸びを見せる音域だ。

愛すべきたくさんの人達が 僕を臆病者に変えてしまったんだ

そして、このBメロとサビの間にsus4から引き戻すワンクッションが置かれ、それまでのBメロを無視するかのようにサビが始まる。ここで、イントロからしばし隠れていたギター、ベース、ドラムスが息を吹き返し、バンドサウンドが復活する。

このBメロからサビへの展開は、これまでのミスチルの楽曲にはちょっと見当たらない。

ポップスの王道ともいべき、Bメロからサビへ大きく盛り上げる巧みな展開は、(小林武史の力も当然あるだろうが)これまで非常に完成度が高かった。「Any」のレビューに書いたように、ポップスにおけるBメロとは、サビを心地よく配置する(つまりサビに向かって曲のテンションを持ち上げていく)という機能を持っている。ところが「HERO」において、Aメロ、Bメロと、せっかく盛り上げてきたものを切り落とすかのように置かれるクッション。これは、ポップス的な文法においては齟齬に近い。

この“裏切り”に気を抜かれた瞬間に、ドラムスとベースが入り、瞬く間にバンドサウンドの渦中に引きずり込まれるというわけだ。

そしてサビのボーカルは、高い音域を裏声(ファルセット)にする。音域が高すぎて裏声に逃げているのではない。むしろ戦略的な裏声だ。

ストリングスまで交えたサビの音作りは、「【es】~theme of es~」を想起するほどに壮大だが、声を張り上げるべき桜井のボーカルは、裏声に抜ける。ここにまた“裏切り”がある。

裏声に抜ける高音域は、どこかしら寂しく悲しく切なげなメッセージを、リスナーに、痛々しいほどに伝えてくる。大きく伸び上がるはずのサビが裏声に抜けるという“裏切り”が、そのメッセージをより深いものにしてくれる。

でもヒーローになりたい ただ1人 君にとっての

サビが「なりたい」という願望というところが、この曲を名曲にしてくれた。

自分を犠牲にしても いつでも
守るべきものは ただ1つ 君なんだよ

「Everything(It's you)」にはあった力強いメロディーも歌詞もない。「ヒーローになりたい」という、誰もが持っている願望。だからこそ、リスナーに響くのだ。静謐な裏声の向こうに、確かにあるエネルギーとして。

最後のサビで、裏声で歌っていたメロディーを、桜井は声を張り上げて歌う。裏声に込められていたエネルギーを解き放つかのように。

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